--.--.-- *--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2010.01.07 *Thu

子ども部屋 ~Change the world~

子ども部屋
Change the world

 おたがいがおたがいを必要としているのはわかってる。だけど、一緒にはいられない。
 いちばん大切なものをささげても、この距離は変えられない。だからもう、好きにするしかないけど、その足がかりになるのもやっぱり、あの人からもらう愛だったりして。
 
 海と陸のあいだに国をつくった海賊のフック船長は、人にもまれ、はいつくばり、跳び、血を流しながら、国をひろげてきた。波のように、みちては津波になって陸を襲い、ひいては大潮になって海を進撃。
 けれど、鰐に襲われて以来、ゆれて渦まく心を操縦しきれずに、今は孤島に身を寄せて、くじけていた。

 いっぽう、いつからか孤島にすみついた妖精のおれは、その光で船を惑わせてきた。寄港する船はやがて去り、帰る家のない子どもが残った。いつも星のように遠くから誘い、ながめ、楽しみ、なりゆきまかせ。
 けれど、夜空をみあげる者がいなければ、星は誰にもきづかれない。だからここで永遠に輝くと決めていた。どこからでもみつけられる星になると。





 黒光りする崖のふちと、赤い星のまきちらされた夜空。ひとり崖に腰かけ、星を食べた。ぱちぱちぱちぱち口のなかで火花がちった。ふっと吹きだすと、暗い波がうねる底へ、火の粉がふりそそいだ。
 さいごに花をなげ、死んだ子どもたちの葬送を終えた。

 崖で鬼ごっこをするのがドンガラ鬼。どんどん走ってがらがら落ちるから。ななめに駆け、すべり、ちぎれながら落ちていった子どもたちの影と笑い声が、底からわきたち、すぐにきえた。
 子どもたちは生きるのも死ぬのもじぶんで決める。フック船長、あんたもそうすればいいのに。
 
 フック船長に会ったのはいちどだけ。海賊船がはじめに島に着岸したとき、挨拶がわりにほんの少し言葉を交わした。頭のよい、背の高い、きれいな肌と茶色の瞳をした男だと思ったことをおぼえている。何を話したのかは忘れた。おれは、ほとんど大人に興味がない。だって、どうせ奴らは帰るべき場所に帰るのだから。

 そのフック船長が、怪物に左手を喰われ、船が焼けこげて以来、おれに会いたがっていることを子どもたちからきいて知っていた。おれを探して探して、贈りものをよういして待っているらしかった。じぶんのいちばん欲しいもの、大切なものを、おしつけてくる気で、ずっとずっと。
 
 いま、その贈りものとやらは、おれの手のなかにある。
 今朝、盗人ごっこをしていた子どもたちが、海賊船からもちだしたのだ。おれの子どもたち、服も髪もナイフの使いかたもめちゃくちゃなおれの子どもたちは、せいとんされたフック船長の部屋にしのびこみ、かんたんにバレるいたずらを繰りかえしている。崩れかけた船の、扉の壊れた船長室にはいるのは、鬼ごっこよりかんたんらしい。
 今日も、子どもたちは
 「こんなものに?そんな力が?」
 と、ひとしきり大笑いをしたあと、贈りものをおきざりにしていた。
 
 おれは、手のなかにあるその、   贈りものを海に還そうとして、やめた。
 桜色の宝石のような輝き、それがもったいなくなったわけではなくて。
 ほんとうは、おれも待っていたのだ。
 フック船長が、もっと追いつめられ、傷つき、孤独になり、泣き、おれの名を呼ぶのを。
 そして、その贈りものを、大切そうに渡そうとしてきたら、
 ことわってやる、
 あっけなく、
 一言で、
 だから早く、贈ってくればいいのに、と。
 その、誰の手に渡っても、ほこり高いお姫さまみたいに水の中で震えている、その贈り物を。


 星をもうひとつ食べながら、夜の海に水平線をみつけようとして目をこらした。
 おれは、たちあがる。おれなりの筋道をとおすために。
 おれの影、子どもの細い足と首をした影が、いっしょに走りだした。
 船長室にいくことにした。

 薄明かりのもれる重い扉。
 ぐうっと力をこめてあけたら、ぼろぼろっと角がこぼれて、傾いた。焼けた海賊船は、こげたパンか、ひからびたお菓子みたいにもろくなっている。部屋のすみには、ベッドがひとつ。その横のちいさな燭だけが静かで、まわりの家具や本、手紙やオルゴールは、乱闘のあとのように、まぜかえされ、ひっくりかえされていた。 探しものをしたあとだった。
 
 ベッドの横にたって寝顔をのぞきこんだ。
 つかれて倒れこむようにベッドに体をあずけるフック船長。
 フック船長は、眠りながら泣いていた。
 うっすらにじんだ涙が、まつげを、なめらかな頬を、濡らしていた。
 上品な服がしわくちゃで。
 おれは、ずるいなあ、と思う。おとななのに、子ども部屋みたいなところでこんなふうに眠るなんて。

 フック船長の長い髪をかきわけて、枕のよこに、ちいさな贈りものを沈めた。
 かえす、ね。

 ふいに、フック船長がささやき、
 「ずっとここにいて」
 おれは息をとめる。
 まぶたが開いた。
 焦点のあわないぬれた茶色の瞳がこちらをむいた。
 フック船長の左腕、利き腕だったはずの方が、おれの体をかすめる。
 なにもついていない腕の先は、つかむべきものをつかめず、フック船長はよろめいた。
 おどろいているおれを、こんどはぐいと、はんたいの手が引き寄せる。
 
 おれは、その手をひきはがして、壁ぎわに逃げた。
 追ってきたかとふりかえったが、フック船長はベッドのなか、うつぶせになって肩をふるわせていた。
 そのままくずれて、枕にかおをうずめた。
 そして、また眠りにおちていった。
 おれはゆっくりと息をはきだす。

 フック船長がどんな夢をみているのかわかる気がした。
 「でも大丈夫、またあえるよ」
 出会いなおせる。まだ、時間はある。
 その限られた時間のなかで、おれのために一回多く泣くことになっただけ。
 
 おれたちは、ふたりとも、世界の限界とじぶんの限界が重なっているタイプだから。
 いくら星と波がよりそってみえても、実在ははてしなく遠く、変えられない。
 だけど、フック船長、あんたの苦しそうな顔をみるたび、おれは、あんたがずっとここにいることになるんじゃないか、そうなったらいいのに、と思ってしまうよ。
 もしもおれが左手を食べた怪物だったら、もっとあんたをめちゃくちゃにしていただろう。
 夜があけても、もう誰もどこにもいけないように、世界のルールを壊したかった。
 
 今夜、波は、星をうつしてうねっていた。
 夜のあいだだけべったり、おたがいがおたがいにはりついている。
 空と海の境界線も、夜のあいだだけ、黒くぬりつぶされとけあっていた。

 扉をあけ、子ども部屋をでたら、ほっとして力がぬけた。
 しんせんな空気をすいこんで思うこと。「いがいとたいへんじゃんか」。今夜から、おれピーター・パンは、サンタ・クロースをちょっとだけ尊敬することにする。
 そして、恋を叶えるお守りだという贈りものの、効き目はたしかにあったようだった。小ビンのなかの、海のしずくと、桜の花びらみたいな、小さなめずらしい魚、ありがとう。小ビンを手のひらにおさめているあいだ、まるで、海をこの手で握っているような、そんな気がしていた。

 空を仰いで星を食べたら、口のなかで火花がちった。
 火の粉をふっと吹きだすと、暗い波がうねる船の下へ、光の尾がすいこまれていった。
 「でも大丈夫、またあえるよ」
 もういちどだけ、言ってみたら、ぱちぱちぱちぱち拍手の音がひびいた。

COMMENT

Comment Form


秘密にする
 

カテゴリ

ココから読む(最新&履歴) (1)
ブログご案内 (1)
コメント記入所 (1)
リンク (1)
あらすじ (1)
【本編】HANDle my love (123)



QRコード

携帯でできるだけ読みやすいテンプレ設定にしてます

QR



メルマガ

更新に追いついている方で、メルマガで読みたい方向けです。 登録しても宣伝メールはこないので、よかったらぜひ。


HANDle my love
空メール登録は こちら



コメント=しおり

コメント欄に「ここまで読んだ♪」など記入して送信すると「しおり」代わりに☆
普通にコメント欄として利用しても○



プロフ&つぶやき日記

宍井智晶

Author:宍井智晶

読み:Sisy chiaki
2010.3.26
ペンネーム、変えました。ハルクミハル⇒シシイチアキ。
よろしく。

それから、ラジオブログはじめました☆
RADIO*TIKA(ラジオチカ) http://www.voiceblog.jp/kunotika/



目次

最近30日分の目次です。それ以前のものは、トップ記事にリンクをはってあります。



リンク

巡回ページ。当ブログはリンクフリーです。

春久の殿堂入り頁



カウンター



ブロとも申請フォーム

せっかくの機能。使ってみよー。

この人とブロともになる



☆ランキング☆

クリックしてくれるといろいろ嬉しいことがあるのだっV



別サイト

ブログ版を、改訂してこちらに掲載しています。言葉を足したり削ったり、かなりかえました。慣れると、こちらのサイトの方が断然見やすいので、のぞいてみて。



08
--
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
--
Copyright © HANDle my love All Rights Reserved.
テンプレート配布者: サリイ  ・・・  素材: ふるるか  ・・・ 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。